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 「おいでになりました」

 廊下の角で見張り番をしていた生徒が、後方で待機している仲間に手を振っ
た。それを合図として一年生が一ダース綺麗に廊下に整列する。

 昼休み。

 一年生達が心待ちにしているのは、白薔薇様、黄薔薇の蕾、紅薔薇の蕾と呼
ばれる生徒会幹部達である。この時間に彼女達が薔薇の館へ行く為、一年生の
教室が並ぶ廊下を通ることがあり、運がよければ三人揃って会えることもある
のだ。

 「今日の色は?」
 
 目を輝かせながら廊下に出てきた一人が、見張り役をしていた生徒に問いか
けた。まるで誕生日のプレゼントを開ける前のようにワクワクしている。
 
 「紅、白、黄、今日は三人揃っていますわ」

 それを聞いて歓声が上がった。お目当ての人物に会えるのが本当に嬉しいの
だろう。

 三人の中で一番人気は、藤堂志摩子である。彼女は二年生ですでに白薔薇を
継承している人物だった。外見的な美しさもさることながら、その上品な物腰
で絶大な人気を誇っている。その人気は根強く彼女達一年生がまだ中等部にい
たころからの憧れの的で、同じ薔薇様である三年生の紅薔薇様、黄薔薇様のそ
れに匹敵するものだった。
 
 『ごきげんよう、白薔薇様、黄薔薇の蕾、紅薔薇の蕾』

 廊下の角を曲がり、視界に入った三人に向かって皆が声を上げる。こうして
声をかけると、彼女達は立ち止まって貴重な時間を割いてくれるのだ。いつ頃
からか、このような光景が見られるようになっていた。
 三年生の薔薇様に対して声をかけるということは中々できないものである。
特に紅薔薇様は近づき難いイメージがあった。その点、二年生である白薔薇
様、黄薔薇の蕾、紅薔薇の蕾は親しみやすく、このように声をかけられること
が多かったのだ。
 それも、福沢祐巳が紅薔薇の蕾になってからより躊躇になったと言える。彼
女の笑顔を見ると癒されると感想を持つ者は少なくない。決定的なのは彼女を
悪く言うものがいないという事実だろう。
 
 「ごきげんよう、皆さん」

 白薔薇様が優しく挨拶を返すのをキッカケに一年生達は自分のお目当ての人
物に声をかけ始めた。
 そんな集団の最後尾で、高橋京子はやりとりを見ているだけで会話には参加
できずにいた。毎回この機会に一言でも喋りかけて、声をかけてもらいたいと
考えてはいるものの、今一歩の勇気が足りずに結局は見ているだけなのだっ
た。

 「それでは、皆さん」

 暫らく一年生達との談笑を楽しんで、三人は薔薇の館へ向かっていった。


 今日も素敵な笑顔だったわ。京子は三人が見えなくなるまで見送るとようや
く教室に戻った。自分の机に戻ると、すぐに先程の光景を反芻する。

 「何、ニヤニヤしてるのよ」

 隣の席に座る、北川麻衣が声をかけてきた。

 「京子さんのそういうところって、あの方にソックリだわ」

 これは、誉めているのかどうなのか?微妙な発言だと京子は思う。一人でコ
ロコロと表情を変えていたというのなら、それを見られたことは恥ずかしい。
しかし、憧れの人と同じ仕草をしていたというのなら、それはそれで良いのか
もしれないとも思う。

 それを見て、更に麻衣は飽きれたように付け加える。
 
 「今、それならそれでいいかもしれないって思ったでしょ」

 う…。京子は思わずギクリとする。最早、麻衣さんには一切隠し事はできな
いのだろう。

 「で、どうだったの? 今日こそは声をかけることができたのかしら。憧れ
の紅薔薇の蕾に」

 京子は何も言えずに俯いてしまった。それを見て麻衣はわざとらしく溜息を
吐き出す。

 「駄目だったの? 何の為に貴重な昼休みを削っているのかわからないじゃ
ない」

 「だって…。なかなか、そんな…」

 「もう。そんなことではいつまでたっても名前も顔も憶えてもらえないじゃ
ないの」

 「私は、祐巳様の顔を見ることができればそれで…」

 「満足だって言うの? でも、祐巳様に妹ができてもそんなふうに言ってい
られるのかしらね」

 「…それは」

 「ほらほら、そんな悲しそうな顔をしないで。祐巳様のようにいつも元気で
いることが目標だって言っていたじゃないの」

 「そうだけど…」

 しかし、実際は祐巳様に妹ができるのも時間の問題だろう。紅薔薇の蕾とい
う立場であれば、いつまでも妹がいないというわけにはいかないからだ。
 そうなった時、今までのように近くで声をかけることができるのだろうか。
恐らく以前のように、廊下で偶然すれ違う幸運を待つだけで、遠くから眺める
ことしかできないだろう。
 自分が憧れの人の妹にと考えなくもないが、それはあまりにも現実離れして
るように感じられた。自分が紅薔薇になる等とは考えられないことだからだ。
 何よりも、まったくといっていいほど接点がない。祐巳様は一年生の自分に
ついて名前も知らなければ、顔も憶えてはいないだろう。

 (あ、考えていたら悲しくなってきちゃった…)

 「ほらほら、顔は笑って。京子さんは笑顔が一番なんだから」
 
 麻衣は京子の頭を抱えると優しく撫でてくれた。



 ※※※



 祐巳様の様子がおかしい。廊下で見かけた時に、京子は敏感にそれを感じ取
っていた。
 他の人間が見ればいつもどおり笑顔に見えるのだが、京子には無理をしてい
る表情に見えたのだ。
 その時、特に気にはしなかった。いくら祐巳様とはいっても人間である。気
分の良い時もあれば悪い時もあるはずなのだから。だから、次に見かけた時は
またいつもの祐巳様になっているだろうと、その時は考えたのだ。

 しかし、そんな考えを余所に祐巳様は日を追うごとに憔悴していく。彼女が
何かに追い詰められ、その状況に苦しみ、誰にも言うことのできない悲痛な叫
びを上げているのは間違いない。しかし、京子は遠くから様子を伺うだけで、
やはり何もできなかった。

 紅薔薇姉妹の間に何か起きたらしいとの噂が流れたのは、それから暫らくし
てからである。

 祐巳様の為に何かしてあげたい。
自分のできることならば何でも。京子は真剣にそう考えるようになっていた。
 今まででも当然そのような考えは持っていたが、実行に移すことはなかっ
た。こちらの勝手な思いは、受ける側にたってみれば迷惑になりえることを十
分に理解しているからだ。しかし、その考えさえもどこかに吹き飛んでしまい
そうになっていた。



 ※※※


 
 「今日も雨ね。いったいいつまで続くのかしら」

 麻衣が折りたたみ傘を開きながら、隣で靴を履き替えている京子に話しかけ
た。最近は、京子まで元気がなくなってしまっている。まるでこの雨模様の不
透明な空のように…。
 なんとかしてあげたい。彼女が不安に思うことがあれば、なんとかして取り
除いてあげたいと思う。

 けれど…。

 「そうですね…」

 京子は元気なく答えただけであった。

 「あ、あれは」

 玄関を出ようとしたところで、麻衣の目が一人の人物に釘付けになる。そこ
には、祐巳様のお姉様である紅薔薇様が立っていた。 

 「うわー。久しぶりに見たけど。やっぱり綺麗な人ねー」

 京子はその姿を見て複雑な表情をしていた。やはり祐巳様が元気のない原因
であるかもしれない人物だけに思うことがあるのだろう。
  
 「何をしていらっしゃるのかしら、誰か待っているのかな?」

 「行きましょう、麻衣さん」

 どうやら、京子は紅薔薇様を見ていたくないようだ。

 二人が玄関を出ようとした時、紅薔薇様が一人の生徒に近寄っていくのが見
えた。ここからは後姿しか見えないが、あの二つに分けた髪型は間違いなく祐
巳様だろう。
 紅薔薇様は祐巳様のカラーを整えている。

 「なんだ、一緒に帰るみたいね。最近上手くいっていないなんて噂があった
けど…」

 京子も立ち止まりその様子を伺う。ただ、大好きな紅薔薇様と一緒にいるこ
とができて、きっと祐巳様はいつものような笑顔になっているのだろうな、と
思った。同時に黙って見ていることしかできない自分を少しだけ悲しく思う。
 
 そんな二人の横を風のように通り過ぎて紅薔薇様と祐巳様に近寄る人物が一
人いた。そして、追いついた二人と何事か会話をしている。

 「あの娘、たしか私達と同じ一年生だったわね。いいわね、あんなふうに親
しく会話ができるなんて」
 
 
 その時。


 「あ!」

 京子と麻衣は同時に声を出していた。あろうことか、祐巳様が傘もささずに
走り去ってしまったのだ。
 やはり紅薔薇姉妹には問題が起こっていたのだ。それも、ちょっとした喧嘩
ではなく、かなり深い溝が出来しまっているのだろう。
 麻衣は信じられないものを見てしまったとの思いと同時に、タイミングの悪
さを呪った。今の光景を間近で見てしまった京子の心境を考えると、さすがに
いたたまれない。

 何て声をかければいのだろう?

 そんなことを考えながら横目で様子を伺うと、京子が意を決したように傘を
開くと雨の中を駆け出していった。

 「ちょ、ちょっと京子さん」
 
 麻衣もそれを追って、雨の中に飛び出した。

 「もうっ京子さんたら、今の状況で何かできるはずないじゃない」

 傘をさしてはいるものの、雨の中で走れば当然スカートは濡れてしまう。そ
れでも麻衣は構わず京子を追って走り続けた。

 あの娘、けっこう足速い…。

 マリア像の前をいつものお祈りをすることもなく走りぬけ、校門の外までや
って来たところで、ようやく京子に追いつくことができた。
 そこで見たものは祐巳様が車に乗って去っていく紅薔薇様を追いかけようと
しているところだった。

 「お姉様っ!!」

 祐巳様の悲痛な叫び声が、はっきりと聞こえてくる。しかし、紅薔薇様が乗
った車はそれを掻き消すように雨の中に消えていった。

 「京子さん、どうするの?」

 麻衣は京子の隣までやってくると、そっと声をかける。
 
 それには答えず、京子はただ首を横に振るだけだった。

 一人残された祐巳様は完全にずぶ濡れになっている。重い色の制服がさらに
重さを増しているように見えた。その姿を見て麻衣は確認こそしなかったが、
京子も同じように泣いているのがわかった。
 大好きな人が目の前で傷つきボロボロになっている。それなのに、自分は何
もすることもできないのだ。
 いったい今の状況で部外者である自分がどのような声をかけることができる
というのだろう。
 二人が呆然と見つめているところへ、祐巳様にリリアンの女子大生と思われ
る人物が声をかけた。

 「あれは、たしか先代の白薔薇様…」

 麻衣はその人物が、去年高等部にたまたま訪れていた時に見かけた先代の白
薔薇様だとすぐにわかった。
 人の顔を憶えるのは得意ではないが、同じ人類とは思えないほどの美しい顔
立ちには、はっきりと見覚えがある。

 「確かに白薔薇様よ」

 それを聞いて、京子も少し安心したようだった。あの方なら濡れた制服や祐
巳様をなんとかしてくれるはずである。
 二人は女子大生二人に連れられて祐巳様が見えなくなるまで見送った。

 京子は三人が通りの向こうに消えてもまだ、その方向をみつめたままだ。

 「京子さん、私達もそろそろ帰ろう…」

 京子はそれに答えず、静かに、しかしはっきりと恐るべき計画を口にした。


 
 「私、決めたわ…」



 ※※※



 「今日も来ていないみたい」

 その言葉を聞いて、京子の顔に落胆の色が浮かぶ。

 「ねえ、本気なの?」

 麻衣はあの日以来、何度となく京子に確認を繰り返してきた。なんとかして
無謀な計画を止めさせる為である。

 「ええ、本気です」

 しかし、その度に京子の口から普段は考えられないようなはっきりとした口
調で返事が返ってくる。決意は揺るぎ無いもののようだ。

 「はあ、信じられない…」 

 彼女の計画とは、なんと紅薔薇様に直接意見を言うというものであった。最
近、紅薔薇様は登校してきていない為、実行には移されていないのだが…。
 どのような出来事があって二人が喧嘩してしまったかもわからないと言うの
に、一方に対して意見を言おうというのだ。しかも、相手は“あの”紅薔薇様
である。もし学校中に知れ渡ってしまったら、京子が反感をかうのは目に見え
ていた。

 「ねえ、京子さん。考え直したら? 紅薔薇様は甘い方ではないわ。とても
怖いという話しも聞いたことがあるし。それに、こういう事って部外者が口を
出すべき問題ではないでしょう?」
 
 「わかっています。でも、言わなくてはならないんです。だって、祐巳様が
紅薔薇様に悪いことをしたとは思えないんです。それなのに、あんな…。いく
らなんでも酷すぎます」

 「うーん…」

 京子が意思の強い人間だということは知っていたが、まさかこれほどは…。
しかし京子のことだ、意思は強くても実際に紅薔薇様に声をかけるのは別問題
だ。その時になれば緊張してしまって何も言えないに決まっている。  
 麻衣は頭を抱えてしまっていた。京子の気持ちはわかる。しかし、こればか
りは他人が口を挟むべき問題ではない。明らかに暴走だ。何とかやめさせなけ
れば…。

 しかし、京子の意志を曲げることができないまま時は過ぎていき。それから
二日後ついに紅薔薇様が登校してきてしまった。



 ※※※



 昼休み、京子は薔薇の館へ向かう中庭への出口のところで紅薔薇様を待って
いた。手にはしっとりと汗をかいていて、先程から胃も痛くなってきている。
 やはり無謀なことだったのだろうか? 紅薔薇様に意見するなんて…。
 しかし、今回ばかりは祐巳様の傷ついた姿を見てしまったのだ、黙っている
事などできない。
 
 一言だけでも何か言わなければ…。

 それにしてもお腹が痛い。昼食を抜いて、ずっと待っていたせいだろうか。
緊張のせいで目も回ってきていた。

 暫らく待ったが紅薔薇様は現れない。今日はここを通らないのかと諦めかけ
た時、ようやく紅薔薇様はその姿を見せた。隣には黄薔薇様もいる。


 「ロ、紅薔薇様」

 目の前を通っていく紅薔薇様に意を決して京子は声を上げる。自分ではかな
り大きな声を上げたつもりだったが、実際は聞き取れるかどうかの小さな声だ
った。
 それでも紅薔薇様は、こちらに気付くと立ち止まって京子を見据えた。間近
で見る紅薔薇様は信じられないくらいに美しい人だった。

 「何かしら?」

 初めて聞くその声を、京子はとても優しく感じた。その瞬間、頭の中が真っ
白になる。

 やっぱり私が浅はかだったのかもしれない…。

 「紅薔薇様。じ、実は、その…」

 「お待ちなさい。用件を言う前に自分の名前を名乗りなさい」

 「も、申し訳…。私、は、高橋 きょ、京子と申します」
 
 「私に言いたいことがあるのなら、はっきりとおっしゃい」

 口調は依然優しげではあるが、京子は一言も発せられなくなっていた。

 だから言ったのに…。心配でずっと様子を伺っていた麻衣は予想通りの展開
に溜息を吐き出した。しかし、こうなってしまったら仕方がなかった。京子の
絶体絶命のピンチを放っておけるはずがない。

 (マリア様、私を守ってください)

 麻衣は心の中で祈りを捧げると、紅薔薇様と京子の間に割って入った。

 「私は彼女と同じクラスの北川麻衣と言います。あの、紅薔薇様と祐巳様の
ことでお話しをしたくて無礼を承知で声をかけてしまいました。申し訳ありま
せん」

 「私と祐巳の?」

 ここで、初めて紅薔薇様の表情に変化があったことを、麻衣は見逃さなかっ
た。明らかに不快だと感じているのがわかる。

 「いったいどういうつもり? 何も知らない部外者が、それも一年生が私達
姉妹のことについて話をしたいだなんて」

 紅薔薇様の強い口調に、麻衣は膝の震えを感じた。

 「祥子、そんな言い方しなくても」

 それまで横で黙って成り行きを見ていた黄薔薇様が、ようやく声を上げる。

 「黙ってらっしゃい、令」

 紅薔薇様は、同じ薔薇様である黄薔薇様にも容赦なくピシャリと言い放っ
た。その場を沈黙が支配する。麻衣も動くことができず彫像のように固まって
しまっていた。
 しかし、そんな空気を砕いたのは京子だった。

 「わ、私はあの時、見ていたんです。雨の日に校門のところで祐巳様がずぶ
濡れになって泣いていたのを」
 
 紅薔薇様は、そのことを聞いて少し落ち着いたようだ。

 「だから、祐巳様が、あまりにも悲しそうだったから…」

 「そう…。見ていたのね。祐巳や貴方達に気苦労をかけたのは、私の落ち度
だったと思うわ。でも心配しないで、私達はもう仲直りしているのよ」

 「そうよ、前より仲がいいくらいなんだから」

 黄薔薇様が楽しそうに口を挟んだ。

 「え? それじゃ…」

 「お家の騒動を喋りたくはないけど…。仲直りしたわ」

 「も、申し訳ありません。そうとは知らずに…」

 「いいのよ。貴方達も祐巳を思ってしたことなのでしょう? さて、もうい
いかしら」

 紅薔薇様は、最初に声をかけた時と同じように優しい声で答えた。

 「し、失礼しました!」

 二人は頭を深く下げると、綺麗に回れ右をして足早に去っていった。
 


 
 「でも、見ず知らずの一年生にあんなことを言われるなんて思わなかったわ
ね」
 
 紅薔薇様は少し釈然としないようだ。

 「それだけ一年生の間で祐巳ちゃんの人気があるのよ。知らなかったの?」

 「祐巳が…」

 「そうよ、祐巳ちゃんの魅力を感じているのは祥子だけじゃないってこと」
 
 「そう、ね」

 
 紅薔薇様には、黄薔薇様のその一言で十分だったようである。それだけ紅薔
薇様は自分の妹の魅力を理解しているのだろう。


 「でもあの娘、あれでいいのかな…」

 黄薔薇様が一年生のいなくなった方向に目を向けた。

 「本人は満足していたようだけど?」

 「京子って娘じゃなくて、もう一人の麻衣って娘のことよ」

 「あの娘がどうかして?」

 「ひょっとしてだけど、京子って娘のことが好きなんじゃないかな?」



 ※※※



 「ごめんなさい、麻衣さん。私どうしていいかわからなくなって」

 階段の踊り場まで戻ってきて、ようやく京子は呼吸をするということを思い
出したようだ。肩で激しく息をしている。

 「いいのよそんなこと。私は何も言えなかったのだから。それに結局は自分
で言えたじゃないの…。よかったじゃない。祐巳様と紅薔薇様が仲直りしてい
て」

 「ご、ごめんなさい。ごめんなさい…」
 
 京子は、そう言うと泣き出してしまった。自分が情けないのか、麻衣に迷惑
をかけてしまったことが悲しいのか…。恐らく両方なのだろう。

 「まったく面倒な人ね」

 麻衣はいつものように溜息を吐き出すと、京子を抱き寄せた。

 「でも、私はそんな京子さんが好きだわ。ね、だから笑って」

 「うん…」

 しゃくり上げる京子の背中を優しく撫でながら、麻衣はつくづく損な役回り
だなと考えたが、こうして側にいられるだけいいのかなとも思っていた。

 


 ―終わり?
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